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リクエスト小説(劇団員モノ):宣戦布告
☆幕の上がった劇場の上で。役者達が一時の悲劇を演じる。
「誰だ、誰なんだ?彼女を刺したのは!」
「次に殺されるのは私かもしれない…!」
「刑事さん、あんたケーサツだろ?犯人を捕まえてくれよ」
興奮する『被害者候補の登場人物』達の言葉に、『刑事』が両手を広げて場を宥める。
「まあまあ、ここは彼の力を借りてみようではありませんか。…ねぇ、探偵さん?」
スポットライトを浴びる刑事を舞台袖で見て、私はそっとため息を吐いた。
ゆっくりと背を向ける。手元の松葉杖を操って。
私の名前は鈴野叶斗(すずのかなと)という。
この劇団の役者の一人であり、本来ならこんな風に日陰の身ではなく、舞台に立って、ライトの下で役を演じるのは私だったのに。
舞台稽古に入る直前に交通事故に巻き混まれて足を骨折してしまった為、急遽代役を立てることになった。
その代役が、さっき私が見ていた彼女、木山明日羽(きやまあすは)。この劇が始まる前まで、この役――探偵の助手をする刑事の役――を巡ってのライバルでもあった彼女は幸運を手にし、スポットライトの下でキラキラと輝いていた。
松葉杖とふらつく足取りで舞台に上がれる訳がないし、仕方ないじゃない、と頭では分かるのに。自分でも醜いと感じる嫉妬心が心を暗くする。

まるでひなたで堂々咲く夏の向日葵と、道端の日陰に咲いた名もない雑草へと落ちた私。

私はそっと舞台袖から劇場を後にした。
ここには、私の居場所はない。



☆拾ったタクシーで病院に着いた私は、病室のベッドに腰掛けた。
介助をしてくれた看護師がナースセンターへと帰ると、一人の部屋に沈黙が満ちる。

ふと、ズボンに落ちたしずくに私は瞬く。
視界が歪み、瞬く拍子に。シミにしずくがまた落ちた。

あぁ、私泣いてるんだ、と実感して。
そしたら我慢出来なくなって顔を手で包み込む。

悔しい、悔しい。
…悲しい。

舞台(あそこ)は私の場所なのに、なぜ病院(こんなところ)なんかで一人で泣かなきゃいけないの?

悔しい。悔しい…!



声を殺して泣いていた私は、不意に小さく響いたノックの音に慌てて顔を上げた。
「どうぞ」

声がひっくり返るのを堪えて返事を返した私の前に現れたのは。

「……明日羽」

叶斗さん、と偽善者の笑みで彼女は私を見る。
「公演、来てくれなかったんですか?」
今日、初日だったんですよ?
私は視線を故意に逸らして『そうね』とだけ返す。
――気付いていたはずだ。私が舞台袖に居たこと。
歯痒さに耐えられず、去ったこと。

この女の綺麗な皮の下は偽善という名前の泥水が流れているに違いない。

そう考えると、溜飲が少しだけ下がる。
「最終日の打ち上げには来ますよね、叶斗さん」
「……手術の日が近いから」
そうですか、と彼女は笑って。視線で私のギブスを舐めた。
「残念ですね。叶斗さんとは一度飲んで見たかったのに」
「……」
私は答えない。
「てゆうか…」
「叶斗さん、あたしのこと、ホント嫌いですよね」
私は思わず顔を彼女に向けた。そして、気まずさにまた顔をそらす。

嫌いだった。
だって貴女は私から奪ってばかりで。
それなのにへらへらと周りに愛想を振りまいては私のカンに障って。

私の居場所も、役も奪っておいて何笑ってるの、とその頬を叩いてやりたいと幾度も思った。

――出来ない癖に、何度だって。

汚いのは私の方。
なのにそれを認めたくないから、彼女を遠ざけた。
それだけ。

思考の渦から引き揚げられたのは、彼女が私の体をその両腕で包み込んだから。
「な、」
なにするの、と口にする前に抱く手に力が籠もって、鼓動が早くなる。
嫌いな人に抱きしめられている、というのに。
ドキドキするのが恥ずかしい。

忘れていた涙の跡にそっと口付けられて更に私はわたわたする。

「なに、なにっ?…なにするの?!」

漸く出てきたセリフの幼稚さに、また頬が熱を帯びる。

解放されたときには、彼女はしっかりと私の目を見て、言った。


「いずれ、認めさせますから」


実力でも。
人間としても。
そして――。


「宣戦布告、ですから」


木山明日羽は私が一番嫌いな人間だった。
へらへらして、私が手に入れたものを奪っていくから。


けれど一番怒るべきなのは、私自身を奪おうと企んでいること、なのかもしれない。


(了)
11/01/13 15:57更新 / 花瀬すらり

■作者メッセージ
新年あけましておめでとうございます。

長らくお待たせしました。
漸く一つ書き上がりました。


しかし、リクエストから少しズレてる気もします…。
宝●=劇団員
刑事=劇の役どころ

にしてみましたが……いかがでしょうか?

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